共同海損保証状における保険金の支払について

April 2020

Boats aground at Saler beach Valencia Spain resized

英国高等法院において行われたBSLE Sunrise [2019] EWHC 2860(Comm)の裁判で、もし共同海損の危険が、法に触れる船主の過失に起因する場合、または、根本的な法的賠償責任問題が未解決である場合、貨物保険者はGA保証状(GA guarantee)による支払いを拒絶することができる、との判決が下されました。

 

事実

 

本件は、“BSLE Sunrise”の座礁及び離礁に伴って発生した共同海損費用を原告たる船主が回収しようとしたことにより生じました。船主は1974年のヨークアントワープルール(以下YAR1974)に基づいて共同海損を宣言し、本船の貨物であった海底敷設用パイプに関して、荷主人側は英国海損精算人協会の基準及びロンドン保険者協会の様式の共同海損盟約書(GA bond)を、セキュリティを提供する貨物保険者とともに発行しました。

 

船主宛の共同海損保証状(GA guarantee)は、以下の内容でした。

預り金を徴収することなく、以下に指定された貨物がその荷受人に納品されることを考慮して、本書の署名者たる当保険者は、本航海の様々な関係者の代理としてその共同海損分担分を、本船船主に支払います。ただし、当該貨物に関して適切な責任があること(to be properly due)が確認された場合に限ることとします。

また当社は、以下について合意いたします。

(a) 本貨物ついて合理的でかつ適切な共同海損の責任があると、海損精算人が認定したと同程度の確認が取れ次第、速やかに支払いを行うこと

 

本件の精算調整書では、被告保険者の共同海損損害および共同海損費用の分担額として、第一精算調整書において526,564米ドル、次に第二精算調整書において548,030米ドルであるとそれぞれ計算されています。

また、船荷証券に定められている通り、もし事故の原因が船主によるハーグビスビー規則の第III条11の違反であった場合、YAR1974のD規則に基づき、荷主側による共同海損の分担はないということは、原告、被告双方に共通する認識でした。

したがって、法廷は保証状に用いられている“適切な責任(properly due)”という言葉の意味について、YAR1974のD規則が貨物保険者の保証状による支払いの対抗に適用されるかどうか、を検討せざるを得ませんでした。

 

英国高等法院

 

結論として、判事は、

「もし、本件損害が、法に触れる船主による過失に起因する場合、または、その賠償責任の問題が未解決である場合、本共同海損保証状に基づいて支払うことができるものは何もない。」としました。

 

本件の判事は、

「『責任(due)』という言葉が金銭的義務に適用された場合、その意味は、法的に未払いであるかまたは支払うべきものである」ということであり、また、「適切な(properly)」という言葉の意味は、「疑いのない状態」を含んでいる。」という被告の主張に同意しました 。

 

重要な点は、「一般に共同海損保証状(GA guarantee)は、共同海損盟約書(GA bond)と連動することを意図したものであるが、共同海損盟約書(GA bonds)を実質的に代用するのではない。」ということです。つまり、共同海損保証状は、共同海損盟約書の担保以上でも以下でもなく、盟約書は貨物の引き渡しのため、現金の保証金などをやり取りする代わりに提供されているということです。

 

実際、保証状(guarantee)には以下の記載があります。

『…保証金を徴収することなく、以下に指定された商品がその荷受人に納品されることを考慮して…

 

したがって、貨物保険者は、「現金の保証金によって保証されている共同海損盟約書よりも大きな利益を船主に提供する」ことに商業的関心はほとんどありません。

 

本件の船主は、Maersk Neuchatelの事例に基づいて起訴をしました。Maersk Neuchatelの事例については、以下のリンクをご参照ください。

https://www.steamshipmutual.com/publications/Articles/ga-security_pay-now_-_argue-later.htm

 

この事例では、支払義務は『精算調整書に記載された』合計額に基づいており、主な問題は定期用船料を保証する立場にあったマースク社が、精算調整書に異議を申し立てる権利があるのかどうかでした。

念書(Letter of undertaking)上でマースク社が用いた言葉遣いは、本件の共同海損保証状で用いられたものと大幅に異なっており、特に本件の共同海損保証状では”適切に”とされていたところが、マースク社の事例では共同海損盟約書の合計額とされていたところが大きく異なっていました。したがって、本件とは異なって、マースク社の事例の判決では、用船者が精算調整書に異議を申し立てる権利はない契約を結んだ、という結論となりました。

 

弊クラブのコメント

 

本件の結審により、(船主の)法に触れる過失があった場合、英国海損清算人協会及びロンドン保険者協会の標準様式の共同海損保証状(GA guarantee)であれば、貨物保険者側が対抗として使えることが明らかになりました。これを機に、海運業界のこれまでの慣習は見直すよう検討されるでしょうし、その慣習に当てはまらないとして正当化できるのは、非常に明確な記載、言い回しをした場合だけ(Maersk Neuchatelなどの例外とみなされた事例のみ)となるでしょう。