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訴訟事例:Tai Prize号 積荷時無故障の評価は船長の義務

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Tai Prize(タイ・プライズ)号事件」[2020] EWHC 127(Comm)について、ロンドンの高等法院が最近下した裁定は、代理人が船長に対し無故障船荷証券を提示して署名を求める場合、無故障船荷証券はその貨物が実際に良好な状態にあることを船長に保証するものではない、という見解を示しました。

本事例に関する英語版記事の要点を下にまとめました。また、オリジナルの英語版は以下よりご覧いただけます。https://www.steamshipmutual.com/publications/Articles/clean-on-board032020

 

概要:

傭船契約書において船長が船荷証券に「提示された内容で」署名するよう求められているとしても、これは、貨物の状態が正常であると証明されていない場合にまでも無故障船荷証券に署名することを船長に要求または許可するものではありません。船長は自身で貨物の状態と船荷証券の対応する条項を合理的に確認することが求められています。船長が積荷時の貨物の状態に懸念を抱いた場合には、それぞれのP&I ClubまたはP&I現地事務所に相談することができます。

事実および法律問題:

 「Tai Prize号」は、ブラジルから中国まで大豆を運ぶために傭船契約されました。無故障船荷証券は、船長に代わり代理人によって一切の限定条件なしに発行されました。中国側の荷受人は貨物が熱による損傷を受けたとして訴訟を起こし、裁判所は船主による賠償を認めました。その後の傭船者と船主間の回収請求の仲裁では、仲裁人が貨物の損傷は出荷前からであったという事実を公表しました。この事実は荷送人には合理的で明白でしたが、船長にとっては合理的で明白ではなかったであろうと考えられます。

 

この仲裁の裁定は高等法院に上訴されました。高等法院は、荷送人(すなわち傭船者の代理人)は貨物が出荷前に損傷していたことを把握していた、または把握しているべきであった、また船長が積荷役中に損傷を合理的に発見することは不可能であった、とする仲裁人による事実認定を受け入れざるを得ませんでした。

 

ただし、その中で以下の3つの法律問題が検討されました。

  • 署名のために船長に提示された当該船荷証券案における「積荷時無故障(clean on board)」および「外観無故障(apparent good order and condition)」という表現は、貨物が良好な状態だったことを保証したことになるのか
  • 当該船荷証券のいずれかの記述が、法律の観点から不正確だったかどうか
  • もし不正確だったならば、これらの誤った記述によってもたらされた結果について、傭船者が船主に補償する義務があったかどうか

判断:

判断の重要なポイントを以下にまとめました。

 

-船長に無故障船荷証券への署名を求めることは、船長が貨物の外観上の状態に関する記述が正確であると納得した場合に無故障船荷証券を発行するという、荷送人から船長への「依頼」に過ぎない。

- 船荷証券の表現は、積荷時における貨物の外観上の状態についての運送人の証拠記録であり、貨物の荷受人はこれを信頼する。

- 上記にかかわらず、船長は「貨物の外観上の状態」に関して自身で評価する義務を負っている。

- ヘーグ・ヴィスビー・ルールでは、荷送人に対し貨物の外観上の状態についての記述に関する義務を一切課していないため、船主は傭船者から補償を受ける権利を有していない。