ホルムズ海峡を通過する際の注意点:戦争危険、危険な港湾と障害となるもの

2019年6月

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2019年6月13日、ホルムズ海峡南沖にて、「国華産業」が運航するケミカルタンカー、KOKUKA COURAGEOUS(コクカ カレイジャス)と FRONT ALTAIR(フロント アルタイル)が攻撃されました。世界有数の給油施設の集積地であるフジャイラでは、先月5月19日に4隻のタンカーが早期の「破壊工作」を受けていたこともあり、この国際ニュースに係る地域に激震が走りました。5月12日と6月13日の攻撃についての責任者が明確にされておらず、戦争行為というよりは恐らくテロリズム1ではないかという憶測があるが、不明点が残っています。

 

ホルムズ海峡について

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾に通じるアラビア海を結ぶ狭い海峡です。エネルギー分析会社のVortexaは、2018年の頭から1日当たり2250万バレルの石油がホルムズ海峡を通過していると報告しており、この量は世界で海上輸送されている石油の約3分の1を占めており、その多くはアジア市場、主に日本、インド、韓国、中国に向けられています。2

極めて直近のあるいは前回の攻撃に対し、責任を追及する組織団体はいないのですが、この地域では緊張が高まっており、今後どのような展開となるのか、かなり不明確となっています。そのため、このような背景には反しますが、2012年からSteamship MutualのWebサイト内の記事3にて取り沙汰されてきた用船契約の潜在的な問題を再検討するには適切な頃合いかと思われます。

この記事 3の焦点は、会員がペルシャ湾沖で指令を受けた場合に、定刻通りまたは契約通りにチャーター出来るのかという問題がありますが、特に、用船の指示に対する順守、港湾の安全性、障害となるもの、および結果として生じる事象が挙げられます。これらの問題を、以下に、繰り返し強調して参ります。

 

戦争危険条項[用船契約]

航海用船と定期用船について、昨今ではかなり詳細に戦争危険条項に盛り込まれており、船舶や乗組員が戦争の危険に晒され兼ねない港湾での手続きを船主や船長が想定する環境では、その目的がオーナーと船舶の利益を保護することが分かります。つまり、一般的にBIMCOのCONWARTIME 2013やVOYWAR 2013の規約、またはこららの1993年版や2004年版、あるいはそれらに準じる契約書式類に見受けられます。

 

CONWARTIME 2013 定期用船に関する戦争危険条項:

事実、脅迫または報告されたものを「戦争危険」に含みます。

戦争、戦争行為、内戦、戦闘、革命、反乱、内乱、軍事的活動、機雷敷設、海賊行為、強盗または強奪行為、捕虜、占領(これらは以下「海賊行為」とする)の他、テロ行為、敵意のある行為や悪意による損害、海峡の封鎖(全ての船舶に対して課されるのか、選別された国籍または所有者による船舶に対してなのか、あるいは特定の貨物や乗組員、またはその他のなんらかの理由にも拘わらず課されるのか)、さらには、承認の有無を問わず、あらゆる人、集団、テロリストや政治団体、領土問題を含め、船長または船主の合理的判断により、本船、積荷、乗組員および本船に乗船している関係者が戦争危険に曝されるかもしれないと思われる場合。

 

VOYWAR 2013にも同一の定義が見られます

かなり以前の限られた定義の条項では、この状況は戦争となってしまいます。英国で最も信ぴょう性の高い、「スピニー社の裁判」(1980)4では、戦争の主な特徴として、以下の二つを考慮する事象だとしました。(i)領土の問題や政治的またはその他の識別可能な支配の中で対立関係にある二者間の紛争。(ii)兵器/紛争が持つ特徴、数量や本質。
正式な宣戦布告の有る無しにかかわらず、軍事的な活動は、戦争危険条項に抵触するでしょう。「スピニー社の裁判」は戦争や類似する状況の中で通用するであろうと示唆していますが、「軍事的な活動」と戦闘は「戦争」よりも幅広く、交戦国の法令に遡及することもあります。

 

海峡の封鎖は、船舶の進行を遮断する武力行使を必要とし、その効力は継続されなければなりません。ホルムズ海峡の封鎖はとそこから広がる波紋は、戦争危険条項の範囲内であるかもしれませんが、周囲の政治的・軍事的状況は勿論のこと、封鎖の性質と長期化について検討する必要があるでしょう。

 

戦争危険のある地域への指示

「トリトン・ラーク」 5の判決の結果を踏まえ、CONWARTIMEの表現に大幅な修正が加えられました。2013年版の条項(b)では、次のように規定されています。

 

船長または船主の合理的判断によれば、本船、貨物、乗組員および本船に乗船している関係者が、あらゆる港湾、場所、区域あるいは水路または運河(以下「区域」とする)を通過する定期用船契約の履行において、戦争危険に曝されるかもしれないと思われる場合、本船はその区域を通過する、または通過することを継続する義務を負うものではない。但し、本船が前述に規定されたの区域範囲内にて、危険となるまたは危険になるかもしれない場合には、入域後、本船は退避の自由を自由を有する(契約を解約できます)。

 

本船が戦争危険にさらされ、船長または船主の合理的判断に委ねられる場合、CONWARTIME 2013のような戦争危険条項によって、船主はペルシャ湾を通過するという指令を拒否出来ます。客観に基づき「合理性」を検証「トリトン・ラーク(2011)」(こちらの訴訟に関しては、過去記事をご参照願います)では、船主は、本船が戦争危険(この場合、海賊行為)にさらされたのではないかという 「本当の可能性」に基づく合理的な判断を下したことを証明しなければなりませんでした(意思決定のプロセスの証拠が求められました)。「本当の」と言うのは、単なる推論ではなく、証拠に基づく根拠を意味します。「トリトン・ラーク」の裁判官はまた、この「可能性」は、そうではない可能性が高いという意味ではないと把握していました。この事件は、五分五分の見込みで起こらなかったかもしれないのですが、ただの可能性よりは、より高度な蓋然性が要求されました。

 

2012年1月25日の同訴訟での追加的な裁判では、裁判官は、戦争危険にさらされるという状況における危険について、何かしらの危険が発生し、その重大性や結果が招く可能性の度合いを含めて、この事件の事実認定に努めました。                  今後の展開について、そのような検証が合致するかどうか注意深く認定される必要があるでしょう。

 

標準的な戦争危険条項が発動した場合、すでに積荷された貨物以外は別の安全な港で揚荷を行えます。SHELLTIME 4の場合、貨物の積荷が行われず、荷揚港を指定するよう要求して 48 時間内に回答がなかったときは、契約は自動的に解約となります。いずれの場合も、条項が解約という選択肢を提示する際は、速やかにそれを行使しなければなりません。そのような条項は、通常、完全に当事者には解約の選択肢があると解釈されます。

 

船主は通常の保険リスクを負っていますが、戦争危険保険で用船者に補償する追加保険料を負担させるのが一般的な方法です。例えば、CONWARTIME 2013の条項(d)の下では、もし本船が戦争危険のある地域を通過する場合、「用船者は、船主の保険者が要求する追加の保険料、ならびに船主が戦争危険に係るものとして合理的に支払う追加保険料を船主に償還する」とあります。クラブの戦争危険の詳細については、「War and Piracy Circular(回覧:戦争と海賊行為について)」をご覧ください。

 

危険な港湾、損失や損害に対する救済策

本船がホルムズ海峡を通過する時に、好戦的行為によって損害を被った場合、船主は用船者に対し、恐らくその脅威性が変わらない限りは安全港ではない状況下での損害の返還請求を制限するかもしれません。安全港の保証とは、本船の入港、寄港、出港を通し、正常ではない状況下で危険にさらされることなく、安全であることを用船者は寄港地の指名時に保証するものであり、その地域のすべての港と言うのではなく、そのような状況のどの港への入港なのかを限定することです。この海峡は、ペルシャ湾にあるすべての港へ航行出来る水路です。

 

しかしながら、CONWARTIME 2013 では、かなり危険であると思われる水路を通ることを用船者が本船に命令することは義務に違反しているとする可能性が依然としてあります。よって、例えば、船主が本船の通過が安全ではないと表明し、用船者がその状況を知りながら任命を承諾するまたは航行を止める手配をしなかった場合、用船者は違反のかどで船主への損害責任を負います。

 

重要なことですが、船主が用船者の指揮命令を受け、あるいはその航海を拒否出来なかった場合、少なくても状況に変化がないのであれば、権利を放棄することになります。もし、その結果として、本船や船主が損害を被り、用船者が違反となっても、船主の引受による損害賠償の請求は出来ません。“Kanchenjunga”(1987)6を参照ください。

 

ですが、船主が用船者からの指揮命令を受ける状況を鑑み、損害請求の放棄が制定されています。The Chemical Venture(1991)7では、船主が用船者との契約履行のため乗組員に任命したにも関わらず、乗組員がクウェート行きの乗船を拒否しました。船主の提案で用船者が乗組員に直接交渉し、乗組員は提示された多額のボーナスに納得した結果、クウェート行きに同意しました。裁判では、船主が用船者と交わした適切な段取りによる損害の返還請求の放棄という判決が下されました。航海を続けるのか、あるいは、様々な交渉を進めるのか、両方の側面を考慮することが大事です。

 

用船者の命令を取るか、舵を取るか。

定期用船の雇用契約に関し、用船者の指揮命令に従う船長の義務から生じる暗黙の補償が、用船者からの任命を順守したために生じた損害を船主が回復するために必要な代替的な根拠をもたらしています。用船者の明示条件によって完全にカバーされている案件であれば、補償を示唆する理由はないかもしれません。さらに、この議題は、用船者の適切な想定の中に、損害のリスクが存在していたのかと言った問題をよく引き起こします。船主は、この損害は、用船者の指揮命令への順守または船長の運航指示との因果関係や、損害賠償の対象ではないと思い込みます。

ホルムズ海峡を通過する指揮命令についてですが、指揮命令への順守のために引き起こされたのか、または船長の航海によって引き起こされたのかという議論は、狭い海峡でありながら、それが危険な地域で無くてむしろ安全な地域だと断言される場合や、機雷が仕掛けられた地域だと知りながら意図的に通過して行くと言った起こりそうにないことです。

したがって、戦争危険条項は、発生する問題に対して非常に安易な答えを示す可能性があります。用船者の下での船主の抱える義務も、The Hill Harmony [2001] 8の上院議員が取り決めた航路の選択と船舶の借用を考慮に入れますと、船舶の運航に対する船主および船長の責任によって影響を受ける可能性も大いにありそうです。しかし、船の安全を逸脱したり遅延させると言った用船者の違反がないならば、運航上の柔軟性を提供できるでしょう。

 

障害となるもの

障害の原理は、戦闘の状況でよく発生します。ビンガム裁判官によると、障害の影響は「…契約を無効にし、当事者にそれ以上の責任を免除させること(仮訳)」です。『スーパー・サーヴァント2』 (1990)9.からの引用契約期間中であっても、どちらの当事者にも非がないにも関わらず根本的な変化が生じ、また双方がともに用船者に何も措置を講じない場合、用船は障害となり直ちに解約となります。義務との平衡を見ても、新しい状況でそれを求めるには不公平だからです。明らかに、幅広い取引限度を持つ長期契約型の用船に比べ、航海用船または定期用船に関する方が障害を感じることがありそうです。

 

戦争や戦闘の脅威が用船の障害になるでしょうか。

なりません。これは、The “Chrysalis” (1983)10の中で Mustill J が述べています。

「契約そのものが、今や競合する相手となってしまった取引先と関わると言った違法行為が併発する場合を除き、戦争の布告は契約履行を妨げるものではありません。 案件の個々の状況に応じて、実行が妨げられるかもしれない程度の戦争の推進のための行為です(仮訳)」

1956年のエジプト政府によるスエズ運河の国有化に始まり、後続の水路の遮断によって戦闘状態という障害に巻き込まれた事例が発生しました。これにより、船舶は、岬の周辺の長い水路をかなりの費用をかけて航行しなくてはならなくなりました。『ユージニア』(1963)11の中で、デニング卿は、問題の用船契約書が障害となるため、これでは根本的な解決に繋がらいと考えています。

「原理が適用されるかどうか、まず契約の内容を理解し、関係者自身がこの状況を把握しているかどうかを確認する必要があります。自分たちでそれを作成したのであれば、その契約を管理しなければなりません。障害は存在しません。もし、あの人達が作成したのではなければ、貴方が、彼らが提供した状況と新たな現状を比較しなければなりません。そして、変更した箇所を確認しなければならない。新しい契約書が、以前の作成者が考えるより、厄介で、高価で、当事者として障害を感じるようであれば十分ではありません。当事者達を実に不当に拘束するに違いないからです(仮訳)」

 

前述したように、戦争危険条項の存在は、用船者が自ら障害を感じることはないのです。契約上の義務がさらに厄介であったりまたは高価であると、契約書自体を障害化させると言えるでしょう。しかしながら、ペルシャ湾に貿易目的にて入出港する代替の航路はないので、ホルムズ海峡が封鎖されると、その障害について議論の余地があるかもしれません。一般的に、遅延も障害になり得ますが、ここでの問題は、遅れが長い期間に渡ると、障害が引き起こされるのではないかという事実です。(ユニバーサル貨物運搬船v Pedro Citati(1957)12を参照)

たとえホルムズ海峡が封鎖されていたとしても、ペルシャ湾を通過する輸送契約が直ちに障害だと見なすのは十分ではないでしょう。その影響の見極めは、国際社会の立場に立って、時間をかけて評価する必要があると思います。

 

結論

今回の事件が戦争行為に該当するとは言えませんが、この地域の勢力が増大し、互いを威嚇するようなことになれば話は違ってきます。従って、これ以上の攻撃がないことが望まれる一方で、メンバー様におかれましては、安全港の保証問題、契約書における戦争危険と制裁の条項に細心の注意を払って頂きたく、お願い申し上げます。

 


 

1. 戦争やテロ行為の負債コストと経費は、クラブ規則のR21で除外されていますが、入港船の適正値を超える請求が保証される可能性もあり、クラブの徹底したカバーが利用可能です。船体戦争やP&I戦争危険も含まれています。

2 (参照) https://edition.cnn.com/2019/06/13/business/strait-of-hormuz-importance/index.html

3  Stephen Kirkpatrick(Reed Smith)著

4 Spinney’s (1948) Ltd v Royal Insurance Co. [1980] 1Lloyds Rep 406

5 Pacific Basin IHX Ltd v Bulkhandling Handymax A/S (「トリトン・ラーク」) [2011] EWHC 2862 (Comm)

6 Motor Oil Hellas (Corinth) Refineries S.A. v Shipping Corporation of India (The Kanchenjunge”) [1990] 1 Lloyd’s Rep.391

7 The “Chemical Venture” [1993] 1 Lloyd’s Rep.508

8 Whistler International Ltd v Kawasaki Kisen Kaisha Ltd., (The “Hill Harmony”) [2001] 1 Lloyd’s Rep 147

9 『スーパー・サーヴァント2』  [1990] 1 Lloyds Rep.1

10 The“Chrysalis” [1983]1Lloyds Rep.503

11 『ユージニア』 [1964] 2 QB 226.Ocean Tramp Tankers Corporation v V/O Sovfract (1963) 2 Lloyds Rep.38

12 ユニバーサル貨物運搬船 v Pedro Citati [1957] 1Lloyds Rep.174